【今、自分の絵画表現を多くの人に伝える方法として、プリマグラフィが最高の技法だと思っている。】
印刷出版を目的として絵を描きはじめて25年、こと原画の再現に関しては、ひと一倍神経質であったように思う。15年ほど前から、原画の展覧会を開くようになり、「原画を販売して欲しい」と求められることが多くなっていたのだが、私は原画を販売しないので、それなら”版画制作”をと思い立ち、リトグラフ、シルクスクリーンなどの再現方法を試みてきた。それぞれの技法上の興味深い特性はあるのだが、原画に見る自分の追い求める表現と比べると、もの足りなさを感じていた。
私にとって紙に鉛筆とパステルで描くことが、現段階においては、自己表現の最大に手段であると思っているのだが、その再現のために、現在知られている様々な版画技法(コロタイプ、ミックスメディア、FMスクリーンなど)を試み、試行錯誤を重ねるという月日を続けてきた。複製プリントには限界があると、半ばあきらめようと思いはじめていた時期にプリマグラフィを試す機会を得た。
このプリマグラフィは、「GiClee:ジクレー」技法を応用した複製画製作技法であり、私自身それ以前に時クレー技法そのものとしての知識はあったのだが、「インクジェットプリント」のイメージを払拭することができないでいた。今回、プリマグラフィを試みて、その”先入観”が間違っていたことを知らされた。
「いい原画には特有の雰囲気とか、エネルギーに近いものがある」と日頃感じているのだが、従来の複製方法では、その再現は不可能なのだと思っていた。
私の作品に関して、プリントディレクターとの細密な打合せを経て、できあがったプリマグラフィは”それ”を見事に再現していた。 まさに驚くべき再現力であった。
今、自分の絵画表現を多くの人に伝える方法として、プリマグラフィが最高の技法だと思っている。 (-1998年 黒井健-)